14.ドライアイ
編集:元東京女子医科大学眼科教授 高村 悦子 先生
このごろアイはインターネットに夢中なの。
でもね、ずっとやってると目がしょぼしょぼして疲れちゃうの。
次の日になっても目がゴロゴロするし...。
これってドライアイかなぁー?
涙は眼球を外部から守る最前線のバリア
私たちのからだは皮膚で覆われています。皮膚は、外部からの異物の侵入を阻止し、からだの水分の蒸発を防ぐなど、大切な働きをしています。
ところが物を見る器官である眼球は、光を素通しさせないと役割を果たせないので皮膚がありません。眼球表面と外部を隔てているのは、ごく薄い涙の層でしかないのです。
涙は眼球表面の粘膜(角膜※1や結膜※2)全体を覆い、それを潤し、眼を守るバリアとして働いています。涙の量が減ったり成分が変化すると、その働きが不十分になり、角膜や結膜が乾燥し、傷つきます。これがドライアイです。
といっても、その状態を「目が乾く」と感じる患者さんはそれほど多くはなく、目が疲れる、目がしょぼしょぼするなどの目の不快感が主な症状です。疲れ目を訴えて眼科を訪れる人の約6割はドライアイが関係しているという調査もあります。
※1 角膜:眼球の前方、黒目に相当する部分を覆っている透明の粘膜。
※2 結膜:眼球とまぶたをつないでいる粘膜。白目にあたる部分。
涙の働き、瞬きの役目
瞳を濡らし続けるための涙の工夫
ドライアイを理解するため、少し難しくなりますが、まず涙の仕組みについて知っておきましょう。右のイラストと「ドライアイの主な原因」のイラストを参照しながら読んでください。
涙は大きく二つの層に分けられます。最も外側は「油層」といいます。上下のまぶたのマイボーム腺から分泌されている油性の液体の層です。この油層が眼球表面の一番外側を覆っていることで、その下の層の水分の蒸発が抑えられます。また、瞬きをしたときに、下まぶたの縁に溜まっている涙を上の方へ引っ張るように押し広げる役割もあります。
油層の下は「液層」といいます。上まぶたにある涙腺から分泌される水性成分と、結膜から分泌される粘性成分(分泌型ムチン)が混ざった液体です。液層は眼球の表面を潤すだけでなく、角結膜(角膜と結膜)に栄養を供給する役割も担っています。
液層の下は角結膜の表面です。そこには膜型ムチンという粘性の液体が広がっていて、液層の安定性を保ち、涙の膜が途切れるのを防いでいます。
目を潤すための瞬きの役割
涙の層を維持するために、もう一つ欠かせない要素があります。それは瞬きです。
瞬きはまず、角膜を刺激し涙腺からの涙の分泌を促す働きをしています。また、涙の膜はなにもせずに10秒ほど過ぎると、所々にすき間ができて角結膜が露出した部分が生じてしまいますが、瞬きをすることで涙が角結膜全体に均一に押し広げられ、すき間ができるのを防いでいます。さらに、汚れた涙を涙点(目頭にある涙の排出口)へ運ぶのも、瞬きの働きです。
ドライアイの原因 ―なぜ目が乾くのか―
生活習慣病としてのドライアイ
ドライアイになる最初の原因は眼球表面の涙液の量が減ることですが、それには涙液の分泌の低下と、涙液の蒸発が多くなることの二つが影響しています。その背景として、次のような要因があげられます。
空気の乾燥
空気が乾燥していると、目の表面から涙液が蒸発しやすくなります。このためドライアイの人の多くは、秋から冬にかけての季節の変わりめに症状が強くなります。本来は湿度が高い夏場も、クーラーの利いた部屋にいると目が乾きます。
瞬きが少ない
意識しなくても、ふつう3秒に1回ぐらい瞬きをしますが、なにかに集中していると、瞬きの回数が減ります。例えば読書で6秒に1回ぐらい、パソコン操作で十数秒に1回程度になります。その結果、涙液の蒸発が進む反面、分泌は低下し、涙の膜が途切れてしまいます。最近はパソコンや携帯電話などの普及により、VDT症候群※3と呼ばれる状態の人が増えています。
※3 VDT症候群:VDTとは、Visual Display Terminal 画像表示端末、つまり、パソコンやテレビ、携帯電話などのことです。これらの操作時は、画面を見ることに集中し、瞬きの回数が極端に減ったり視線を激しく移動するため、目に大変負担となり、疲れ目やドライアイを引き起こします。また、頭痛やめまいが起きることもあります。高度情報社会の申し子ともいえる病気です。
瞬きが不完全
瞬きの瞬間しっかりまぶたを閉じていない人がいます。そのため、瞬きをしても眼球表面の下の方はいつも潤わないことになります。眠っているとき薄目を開いている人や、コンタクトレンズをしている人に多い傾向があります。
コンタクトレンズの装着
コンタクトレンズが水をはじくために、目が乾燥することがあります。また、角膜が覆われてその感度が鈍くなることや、瞬きが不完全になることで、涙の分泌が低下します。レンズの汚れや傷が涙の膜を不安定にしたり、結膜のムチン分泌を低下させることもあります。
以上のような、環境要因の影響が強いドライアイは"目の生活習慣病"といえますが、ドライアイの原因は、これら以外にもあります。
ドライアイのそのほかの原因
シェーグレン症候群
中年の女性に多い病気で、目や口、鼻などの粘膜が乾燥し、関節痛が起きることもあります。涙腺が障害されるため涙の分泌が減り、強いドライアイの症状が現れます。
マイボーム腺が詰まる
マイボーム腺は、油層の成分を分泌する所です。マイボーム腺がなんらかの原因で詰まると、油層の形成が不完全になり、涙液の蒸発を防ぐことができません。
結膜炎など
近年患者数が増加しているアレルギー性結膜炎などでも、結膜のムチン分泌が減り、ドライアイを招きます。
乾いた目が、さらにドライアイを進行させる=ドライアイの悪循環
目が乾く原因はこのようにいろいろありますが、実際には複数の要素が重なりあった結果ドライアイになったり、その症状を悪化させていることが多々あります。
目が乾く主要原因がいずれであっても、涙の膜が不安定な状態では、角結膜が傷つきやすくなります。いったん角結膜が障害されると、ムチンが分泌されなくなるので、さらに涙の膜が不安定になって角結膜の障害が進行するという、ドライアイの悪循環が生じてしまいます。
ドライアイの診断、原因を調べる検査
涙液層破壊時間(BUT)の測定
涙の乾きやすさを調べる検査です。角結膜をフルオレセインという色素で染色した後に、瞬きをせず目を開いたままにしてもらいます。やがて涙が乾き始めると、角結膜の表面に涙の層がない部分が生じてきます。涙の層が不安定なほど短時間でその変化が現れます。その時間が5秒以下で、かつ目の不快感などの症状がある場合に、ドライアイと診断されます。
角結膜の染色
傷を浮かび上がらせる染色液(フルオレセインなどの色素)を点眼して、角結膜の状態を調べる検査です。
フルオレセイン染色
角膜の傷ついた部分が緑色に染まり、傷の状態を明瞭に観察できます。
シルマーテスト
下まぶたに濾紙を挟んで、そこに涙が滲んでくる量を測定します。涙腺の機能を調べるために行われ、シェーグレン症候群によるドライアイの診断に必要な検査です。
このほか、涙の膜の安定性を調べたり、マイボーム腺を調べる検査なども行われます。
シルマーテスト
ドライアイを治療し快適な"視生活"を!
点眼薬で目を潤す
「ドライアイの原因」で少し解説しましたが、目が乾く原因として、涙の蒸発が亢進することと、涙の安定性が低下すること、そして涙の分泌が低下することが挙げられます。そしてドライアイの治療薬も、これらの原因に合わせて使い分けます。
人工涙液
減少してしまった涙の水分を補ったり洗眼するための目薬です。点眼後、短時間で吸収・排出されてしまうので、ドライアイ治療にはこまめに(1日5~6回)点眼します。
ただし、必ず防腐剤の入っていない人工涙液を使用しないといけません。防腐剤による角結膜障害の心配があるからです。眼科医に、よい人工涙液を選んでもらいましょう。
ヒアルロン酸製剤
ヒアルロン酸の保湿作用を利用し、水分の蒸発を防いで眼球表面にとどまる涙の量を増やす目薬です。人工涙液に比べて効果の持続時間が長いとされています。
ジクアホソル
水分やムチンの分泌を促すことで、涙の量を増やす目薬です。ムチンが増えるために涙の安定性も向上します。点眼後に目がしみたり、目やにが増えることがあります。
レバミピド
ムチンの分泌を促して涙の安定性を高めたり、角結膜の炎症を抑えたりしてドライアイを改善します。ムチンを分泌する細胞の数そのものを増やす作用もあります。点眼後に目がかすんだり、苦味を感じることがあります。
治療継続が大切
これらの目薬のうち後二者は、涙の安定性と分泌量を徐々に高めていく薬です。そのため効果を実感するまで、しばらく時間がかかることがあります。
涙点を塞いで涙の排出を減らす
涙の分泌量が少なくても、涙点を塞いでしまえば、涙を眼球表面に長く留めることができます。その方法として、涙点に小さなプラグを差し込んだり、涙点を閉じる手術があります。人工涙液では補えない、本来の涙の成分も補給できるので、高い効果が期待できます。
フード付き眼鏡の利用
フレームにフードが付いたドライアイ専用眼鏡があります。すでに眼鏡をかけている場合は、それにフードを取り付けることができます。眼球表面からの涙の蒸発が減りますし、風よけ効果で症状が抑えられ、また、目の周りの皮膚から蒸発した水分がフード内に溜まって保湿効果も得られます。フード内に付いているスポンジ(矢印)を濡らすことで、保湿効果をより高められます。
視環境を見直しましょう
ここまで紹介した治療法は、主に眼科医による処置や処方ですが、ドライアイは"目の生活習慣病"という側面のある病気です。それだけに患者さん自身が、ふだん物を見る環境「視環境」を整えることも大切です。
視力を再確認
物を見つめるとただでさえ瞬きが減りますが、視力が低下していたり眼鏡の度が合っていないと、目を凝らすためにさらに瞬きが減ってしまいます。ドライアイの治療には、視力の再チェックも欠かせません。
パソコンは画面を見下ろす位置に
上を見ると自然にまぶたが大きく開き、それだけ涙の蒸発が早くなります。パソコンのディスプレイはなるべく下のほうにもっていき、テレビも床に置くのがよいでしょう。
空調の風や湿度などをチェック!
風が直接目に当たると、目はすぐに乾燥してしまいます。エアコンの風向きに注意しましょう。また、からだが心地好いと感じる湿度は意外に低く、ドライアイにはよくありません。できるだけ加湿を心掛けましょう。汚れた空気は目にしみますから、たばこの煙などが周囲に回り込まないようにしましょう。
意識して瞬きする
瞬きの回数を増やすとともに、しっかり瞬きする(瞬きの瞬間に完全に目を閉じる)ようにしましょう。
こまめに目を休ませる
目を酷使する作業では間に休憩を挟みましょう。温かいタオルなどで目を温めるのもよい方法です。
目を守るため検査を忘れずに
一度ドライアイと診断された患者さんのなかには、目の具合が悪いのは全部ドライアイのせいだと思い込んでしまう人がいますが、そうとは限りません。ドライアイとは別の病気の可能性もあります。また、涙点プラグなどの治療で症状はよくなっても、それで検査や治療の必要が全くなくなったと判断するのもよくありません。
目になにか変化が起きたときに、それを早めに見つけるため、なるべく定期的に眼科を受診しましょう。そして、いつまでも目を守り、快適な生活を続けてください。
涙って、悲しいときとか感動したときに溢れるだけじゃないのね。とっても大事な役割があるんだー。
みんなも視環境に気をつけて、キラキラ輝く瞳をずっと大切にしてネ。