30.コンタクトレンズ
編集:糸井眼科医院院長 糸井 素純 先生
学校で視力検査したら、去年よりもまた悪くなっていたの。
もうメガネしないとダメなのかなぁ~。
メガネは恥ずかしいから、コンタクトにしよっかな。
国内のコンタクトレンズ使用者はすでに1,800万人を超えたと言われています。コンタクトレンズの装用開始年齢も年々低下し、多くの高校生、中学生、最近では小学生のうちから装用を始める子どももいます。コンタクトレンズが、近視などで不自由している多くの人の助けになっていることは、間違いありません。メガネより優れている点もたくさんあります。
一方で、コンタクトレンズ使用者の3割になにかしらの障害が見出され、使用を一時中止しなければならない障害が、1年間に約100万件発生していると言われています。失明に至るケースもあります。視力を矯正するための手段なのに、それが視力を奪うことさえあるのです。
コンタクトレンズの良さを生かして快適な生活を続けるために、正しい使い方を、ぜひ、よく知っておいてください。
コンタクトレンズの特徴と、目の負担
コンタクトレンズの長所
初めに、コンタクトレンズがメガネより優れている点を挙げましょう。
- 視力の矯正力が高い。メガネでは矯正しきれない屈折異常※1も矯正可能。
- 物の見え方が変わらない。メガネだと、物が小さく見えたり、大きく見えたり、ゆがんで見えたりする。
- 左右の視力差があっても大丈夫。メガネでは左右の視力差が大きいとき、網膜に写る像の大きさに違いが生じて眼精疲労が起こる。
- 視野が広い。メガネではレンズの大きさによって視野が限られる。
- 激しい身動きや汗などでずれたりしない。
- 顔の印象が変わらない。
※1 屈折異常:近視や遠視、乱視のこと
コンタクトレンズの短所
コンタクトは英語の'contact'=「接触」という意味。コンタクトレンズとメガネの一番の違いは、目に接触しているかいないかということです。前に挙げた多くのメリットも実はこの違いのおかげなのですが、反対にそれが欠点にもつながります。
- 眼障害(目の病気)を起こすことがある。メガネでは起こり得ない眼障害が、しばしば起こる。
- 装着やレンズケアが面倒。装用や取り外しに慣れが必要で、洗浄や消毒、蛋白除去などのケアも不可欠。
コンタクトレンズによる角膜の負担
コンタクトレンズが「接触」するのは、角膜(眼球表面の黒目に相当する部分)です。角膜は無色透明の組織で(そうでないと物が見えません)、透明であるために、細胞が生きるのに必要な酸素を送り届ける血管がありません。
角膜の細胞に必要な酸素は主に、外気から眼球表面を覆っている涙の層を通して運ばれます。コンタクトレンズはこの経路を邪魔します。酸素透過性レンズでも、透過量が十分とは言えません。
コンタクトレンズ「不適応」の人
コンタクトレンズは、法律で定める「高度管理医療機器」で、医師が病気などの治療のために必要だと判断した人に処方するものです。当然、医学的に使用が「不適応」と判断されるケースもあります。
目の病気がある人
とくに結膜炎やドライアイなど、目の表面の病気がある場合。
小学生ぐらいまでの子ども
眼球が未成熟なため、コンタクトレンズ装用による目への影響が大きい。
正しく使用できない人
装用時間を守らない人、レンズケアがいい加減な人、定期検査を受けない人。
コンタクトレンズの種類
ハードレンズとソフトレンズに大別できます。両者は単に素材が硬いか軟らかいかの違いだけでなくて、さまざまな長所と短所があります。
ハードレンズ
涙の層を間に挟んで角膜に乗せるように装用します。まばたきをするたびにレンズが動き、その都度、レンズと角膜の間に溜まっている涙が新しい涙に置き変わり、それによってレンズに覆われている部分の角膜へ酸素や栄養が送り届けられます。現在は、レンズの素材そのものも酸素を透過するタイプが主流です。
ハードレンズの長所
- 目にやさしい。角膜への酸素供給量が多い。
- 安全性が高い。眼球表面で動くので、角膜に傷ができると痛くて装用していられない。そのため傷や病気の早期発見・治療につながり、視力が障害されるまで進行することはめったにない。
- 光学的に優れている。素材が硬いので角膜表面の凹凸を補正でき、不正乱視※2や円錐角膜※3も矯正できる。
※2 不正乱視:角膜のカーブが不規則に変化しているために起こる乱視
※3 円錐角膜:角膜が円錐状に尖っていること。不正乱視の原因の一つ
ハードレンズの短所
- 装用感がよくない(慣れれば問題ない)
- ずれやすい
- 紛失しやすい(落すと見つけにくい)
- 充血が目立ちやすい
ソフトレンズ
ハードレンズの装用感の悪さを改善するために登場したのがソフトレンズです。軟らかい素材で角膜全体をすっぽり覆い、目の表面に固定されます。涙の交換はあまり行われず、角膜に届く酸素はほぼ、レンズを透過する分だけに限られます。
ソフトレンズの長所
- 装用感がよくない(慣れれば問題ない)
- ずれやすい
- 紛失しやすい(落すと見つけにくい)
- 充血が目立ちやすい
ソフトレンズの短所
- 目の負担が多い。角膜への酸素供給量が少ない。
- 安全面に注意が必要。眼球表面で動かず、角膜に傷ができてもその痛みを和らげるので、傷や病気の発見が遅くなり、視力が障害されるまで進行を許してしまうことがある。
- 光学的にやや劣る。素材が軟らかいので不正乱視や円錐角膜は矯正できない。
装用パターンによるタイプ分類
(1)従来型(以前からあるタイプ)
レンズケアをしながら1年~数年、使い続けるタイプ。ハードレンズの多くがこのタイプ。ソフトレンズは少ない。
(2)毎日交換-使い捨てタイプ
毎日交換する使い捨てのソフトレンズ。ケアをせずにいつも清潔なレンズを使えるために安全性は高いが、費用がかさむ。一度外したら再装用できない。
(3)連続装用-使い捨てタイプ
寝るときも外さず、数日~最長1週間続けて装用したあとに捨てる。1カ月連続装用タイプもある。手間がかからないが、目の負担が大きいソフトレンズ。
(4)頻回(定期)交換タイプ
ソフトレンズに必須の繁雑なケアを軽減するため、レンズをこまめに交換する方法。ただし毎日の簡単なケアは必要。最長2週間使うタイプが主流だが、1~3カ月使える素材もある。
(日本コンタクトレンズ協会資料より)
レンズの種類 | 1年間の眼障害発症率 | |
---|---|---|
(1) | ハードレンズ | 5.6% |
従来型ソフトレンズ | 11.1% | |
(2) | 1日使い捨てソフトレンズ | 3.3% |
(3) | 1週間連続装用使い捨てソフトレンズ | 15.0% |
(4) | 2週間交換ソフトレンズ | 9.6% |
全体の平均 | 7.4% |
コンタクトレンズによる目の病気
コンタクトレンズの不適切使用による視覚障害の危険性を訴える情報は、決して少なくありませんが、ほとんどの人はそれを"他人事"だと思ってしまうようです。障害が起きてから眼科を受診し、「まさか自分が...」と慌てる人が少なくありません。
角膜上皮障害
角膜の一番外側の層を上皮といいます。コンタクトレンズによる病気で最も多いのは、この上皮の障害です。レンズの下に入り込んだゴミ、レンズに付着している汚れやケア用品が上皮を傷つける原因です。上皮細胞はさかんに新しい細胞に生まれ変わっているので、痛くても通常は数日で治ります。しかしソフトレンズの場合は気づくのが遅れ、その間に細菌などに感染してしまうことがあります。
角膜浸潤・潰瘍
角膜上皮の内側を実質といい、そこまで障害が及んだ状態を指します。上皮障害よりも重症と言えますし、感染などの危険がより高くなります。感染を起こした場合は治療が遅れると炎症が眼球内に及ぶ可能性があり、失明に至ることがあります。
角膜浮腫
酸素不足のために細胞の新陳代謝が阻害されて起こる、角膜のむくみです。視力が少し低下しますが、レンズの種類や装用方法を適切にすれば、むくみはひきます。
角膜血管新生
本来は無血管で無色透明の角膜に、血管が伸びてくることです。より重度の酸素不足のサインですから、装用を中止したり装用時間を短縮する必要があります。
血管が角膜に侵入しています |
角膜内皮障害
角膜の一番内側の層を内皮といいます。酸素不足などのために、その内皮細胞の数が減ることがあります。重症になるまで全く症状が現れません。しかも内皮細胞は上皮細胞と異なり再生しないので、視力低下などで気づいたときは角膜移植しか治療法がない、ということになりかねません。
左は正常な角膜内皮。右は異常な内皮で、細胞の数が減って、細胞のかたちも崩れています |
巨大乳頭結膜炎
レンズの汚れが原因のアレルギー性結膜炎です。抗アレルギー薬などの点眼やレンズケアの徹底とともに、汚れにくいレンズへの変更も考えます。
軽症例 | 重症例 |
コンタクトレンズを安全に使うために
定期検査を受ける
いくつかあるコンタクトレンズによる眼障害の発生原因の中で、最も相関性が高いのは、「定期検査を受けない」ことです。定期検査は自覚症状のあるなしに関わらず、必ず受けてください。
コンタクトレンズを装用しているために傷の痛みなどの症状が抑えられることがありますし、自覚症状が全くないままに進行する病気もあります。たとえそのような障害が起きても、定期検査を受けていれば軽症のうちに発見・対処できます。もちろん定期検査時以外でも、異常を感じたら装用を止めて、眼科を受診してください。
良いコンタクトレンズの条件
患者さんにとって良いコンタクトレンズと言えば、長時間つけたままでいられる、つけ心地が良い、手間がかからない、費用が安い、などでしょう。しかし眼科医にとっては、なによりも安全性が高いことが一番の条件です。眼科医は、安全性を考慮しつつ患者さんの希望を取り入れて、最適のレンズを選んで処方します。
無理な装用をしない
レンズメーカーでは、レンズごとに装用可能時間を示しています。ただしその数値はあくまで目安で、目の状態や環境、装用中の作業内容などによって、人それぞれ異なります。医師に指示された限度を守ってください。連続装用タイプでないレンズを外さず寝るのは、もってのほかです。
正しいレンズケアを続ける
レンズケアの方法はレンズの種類によって異なります。いい加減な'自己流'でなく、医師に言われた通りにケアしてください。洗浄・保存液なども必ず指示されたものを使ってください。
- 使い捨てレンズを再度使う。一度外したら捨てる。絶対に再使用しない。
- こすり洗いをしない。。「つけおきタイプ」として販売されている洗浄・保存液でも、安全な装用のためには、こすり洗いが必要。
- 手を洗わずにレンズに触る。レンズを洗浄する意味がない。
- すすぎが不十分。洗浄・保存液が残っていると、角膜上皮障害の原因に。
- レンズケースの手入れが不十分。ケースの中を毎回洗って乾燥させる。数カ月おきに新しいものと交換する。
- ケア用品を変更する。レンズとの相性が合わないと洗浄力が明らかに低下したり、目に傷をつけることもある。変更する際は眼科医に相談を。
- ソフトレンズの洗浄や保存に井戸水や水道水を使う。アメーバーなどがレンズ内に入り込むことがある。
- レンズを取り出して、そのまま装用。使い捨てタイプ以外はすすぎが必要
こすり洗いの必要性
左端はレンズを洗う前の状態で、真ん中はこすり洗いをした後の写真です。よごれがしっかり落ちています。ところが右端のつけおき洗いだけのレンズは、汚れが取り切れていません。 |
子どもはコンタクトにしないほうがいいって書いてあったけど、アイはどうかな?ママと目医者さんに聞いてみよ!